第29章 彼女を見逃す

黒谷優の顔色が、みるみる沈んだ。瞳の奥にあった期待が、すっと警戒へと変わる。

「海乃は?」

「南坂なら、とっくに行ったよ」

マークは肩をすくめると、大股で部屋に入ってくる。ベッド脇に立ち、見下ろすように黒谷を見た。

「今日の午後は大事なオペがあるんだ。君みたいなのに、いつまでも付き添ってる暇はない。えっと……君らの言い方だと何だっけ。モラハラ元夫、だっけ?」

モラハラ元夫。

その言葉が針みたいに、黒谷優の胸を刺した。

黒谷は乱暴に布団をはねのけ、立ち上がる。まだ身体はふらつくのに、纏う圧だけは少しも負けていない。

「俺と海乃のは夫婦のじゃれ合いだ! 部外者のお前が口を挟む筋合...

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